COLORの由来



「そういえば・・」

まだ開店前の店内で、店長のミーティングも終わり、のんびりティータイムを全員で過ごしている時だった。

話題の一つとして、爽がこんな事を店長の彼方に問いただしたのだった。

「この店の名前の由来って何です?」

彼方は、カップを持ったまま、ふふっと笑うと、「聞きたいかい?」と顔で返事を返した。

「はい、是非お聞きしたいです」

そんな彼方の話をいつも聞きたがるのは、近頃バイトとして働き出した幕乃花梨のみだ。

「実はね、僕は美大生だったんだよ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?



美大?いや、そもそも由来を聞いているのに何の関係があるのだろうかとか、

そういえば以前ぬいぐるみ失踪事件で彼方が書いた某M−たんの絵は

まるで幼稚園児が描くようなものではなかったどうかなど 色々な考えが爽の頭を巡る。

「まあ、それでね」

そんな爽の考え事などにも気づかず、彼方は話を続けた。

「こう、絵の具を使って絵を描こうとしてた時だったんだけどね。

水色をその時、出したくて必死に混ぜてたんだけど・・一度目を離した時に、

横に出してた黒絵の具に筆がついちゃってね〜・・」

何時の間にか真面目に聞いている店員達。

ただ一人、海斗を除いて。 海斗は一人、足を組んだ上に雑誌を開いて、

コーヒーを一人のほほんと飲んでいる。

「その時はほんとに泣きそうになってねぇ・・必死で、白絵の具を混ぜてさ。

でも不思議と、絵の具って明るい色を加えれば自然と明るい色に変わってゆくもんでしょ?

で、僕は思ったんだよ。人と似てるな〜って」

彼方は笑いながら、カップを持ってコーヒーを一口飲んだ。

「青に白を混ぜた色は水色だけど、そこにちょっとでも他の色が混じったら“ちょっと濃い水色”であるわけだし。

そもそも、人によって作り出す水色の色も違うんじゃないかな。青色が多かったりとか白色が多かったりとか」

「人だって、何か小さな出来事でもあればそれだけで昨日の自分とは違う自分になっているんだろうね。

だから、こういう接客業を開こうと思った時に“COLOR”がいいな〜と思ったんだよ〜」

誰もがこの時だけ、彼方を店長らしいと思った。

花梨に至っては、「凄い・・!」と手を合わせて感動している。

その時だった。

「・・・・相変わらず辛気くせー店」

全員がドアの方向を見る。そこには、いつの間に入ったのかずらりと黒のスーツに身を包んだ男達が立っている。

そして、その男達の前に一人、ズボンに手を入れたまま、

自分は偉いんだという雰囲気を保ちながら、こちらを睨んでいる 男が立っていた。

「そんなバカみたいな由来の店に、よく勤めてられるよな海斗」

男は立ったまま、バカにした笑いで、海斗の方を見下ろした。

海斗と言えば、未だ雑誌に目を通したままだった。

「おい!」

後ろにずらーっと並んでいた黒スーツの男の一人が、海斗の態度にキレたのか、海斗の襟を後ろから掴んだ。

「やめとけ」

スーツの男は、一人目立った男に制止の言葉をかけられると、チッと声を出して、海斗の服を離した。

海斗は掴まれて、乱れた服を平然と直す。

「こんなバカな奴らに殴る力ってのが無駄になるぜ」

「そのバカな連中に気をとめるのが何故か、俺は知りたいんだけど」

今まで押し黙っていた海斗が、ふと口を動かした。

「何だと?」と首謀らしき男がもう一度海斗を見下ろせば、 こちらが見下ろしていることをも忘れそうな冷たい視線。



(やばいデース・・・かなりきてまーす)

(そもそもあいつら一体何やの?海斗の知り合いなん?ヤーさん?)

(ヤーさんって何ですか、チーコさん・・)

(何や花梨知らんの?ヤクザよヤクザ)

とケニー・ちこ・花梨の三人は机の下でぼそぼそ話している。

彼方といえば、黒スーツのあまりの人数の多さにぬいぐるみが倒れ、泣きながら拾っている最中だ。

爽は海斗たちのやりとりをじっと見て、自分が最も目立つ時を待っている。

「俺のこと忘れてないだろうな?」

「さあ?誰だっけ?俺、女にしか興味ないから。

そもそもあんたのことを記憶したことで俺が得することないしね」

海斗のこの言葉にさすがに相手も言葉が乱暴になってくるのが分かる。

「〜〜・・いい度胸だな。散々俺の客を奪っておきながら」

「魅力がないんだろ」

海斗は淡々と切り捨ててゆく。

「この“SINGLE”の柳凱 朗に向かって魅力がない?なら俺の店見に来るか?」

「SINGLE言うたら、ウチの近くに出来たホスト店やないの!」

とちこは机の下からぱっと立ち上がって、叫んだ。さすがは、関西人。噂などの情報は早いらしい。

「近くに出来たせいで、こっちの商売が上がったり〜?とかチーコさんが言ってたSHOPの事ですか〜?」

ケニーはなるほどとうんうん頷いている。

「そのお店の店員が、ウチらの店にわざわざ出向いてきたってのはどういうわけなん?」

「勝負だ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?

再度頭に“?”マークが浮かぶ。何を勝負するというんだこの20代ピーにもなった男が(Byちこの心)

「“SINGLE”と“COLOR”・・どちらが上か、お前達に分からせる為にやってきたんだよ」



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