ホスト探偵 -中編-



「・・・・・・・・・・・・・・・・で?」

彼方が「いい考えがあるよ!」と言ってから30分後。 爽と海斗は、控え室で妙な格好をしていた。

「いやー、僕は何を着ても似合うね!」

爽は前髪をふぁさっと手でかきあげながら言う。

「二人ともよく似合ってるよー!ほんとの女の子みたいだね!」

彼方は狐の着ぐるみに身を包み、自分は商売準備万端である。

その一方で、爽と海斗の二人はというと・・何故か女装させられている。

爽は黒髪のストレートロングの鬘を被り、赤のロングドレス。

そんな格好をしつつ、鏡を見ながら、「女でもいけるね僕は」などと呟いている。

海斗は、自分の髪と同じ色のブルーがかったソバージュの鬘を被り、黒のロングドレス。

眉間には皺を寄せ・・明らかに怒っている様子だった。

「二人とも、ミーたんのこと上手く聞き出してね!」

彼方は、自分が描いたミーたんのイラスト(幼稚園児が描いたような絵)を手に持って、二人に見せながら言った。

「任せておいて下さい。僕の魅力でイチコロですよ」

爽ははっきりとそう言った。誰も仁を落とせとは言ってない。

そう今回の計画はこうだった。

まず、仁に二人が女性客と近づき、さりげなく彼方のミーたんこと

ぬいぐるみの行方を知っているかどうかを聞き出そうという計画だ。

「こんなんでほんとに大丈夫なのかよ・・」



爽と海斗はこっそりと店内をのぞき、仁を探した。

すると、奥の部屋でまだ客を捕まえずにぼーっと(確実に寝てると思われる)座っている仁がいた。

「・・・よし、ここからは言葉も変えなくてはいけないね!」

爽はオホンッと咳払いをし、颯爽と仁のところまでいわゆる、モデル歩きで歩いていった。

「・・っておい!勝手に先に歩いていくな」

海斗は慣れないスカートの裾を持ちながら、爽の後ろを追っていく。

(いいかい?女性というのは品があってこそなのだよ。そう、僕のようにね)

(俺には女装趣味なんてものがないから、そんなの知るかよ)

あーだこーだと小声で言い争っているうちに仁の前へと着いてしまった二人。

いざ着いて仁を前にした途端に、海斗はくるっと向きを変えた。

(こらこら、どこに行くんだい?!)

(やっぱ辞めた。割に合うか、こんなの)

とその時、海斗は腕を引っ張られ、ソファに落ちるように座った。というより座らされた。

「いって・・何す・・」

と仁の顔を睨みつければ・・既に仁は仕事モード。じーっと見つめられ、海斗の顔に冷や汗がこぼれる・・。

「こんにちわ、仁さん。隣いいかい〜・・いいですか?」

女言葉に慣れず、かなり無理やりな言葉で、爽は仁に話しかけた。

海斗とのやり取りを面白くなく、見ていた爽。

爽の頭の中には、自分は今、とてつもなく綺麗な女性だとインプットされているため、

海斗を先に座らせたという事自体が、機嫌を損ねる要因だったようだ。

「・・・どうぞ」

仁は普段見せないような笑顔を爽に向け、言った。

「えーと、仁はぬいぐるみとか好きなの?」

海斗は、早く終わらしたいが為に、早速話を切り出した。

爽に比べると、女言葉がかなり上手いのは、それだけ多くの女性を相手してきたためだろう。

「・・ぬいぐるみ?」

「そうそう。ぬいぐるみって可愛いじゃない」

海斗は作り笑顔で、笑いかけてみる。

(俺何やってんだか・・・・)

と思ったさなか、いきなり海斗の手を握りだす仁。

「え?」

「ぬいぐるみより、君の方がずっと可愛いよ・・」

・・・・・海斗は、その言葉に別の意味で沈没した。

握られた手を、ばっと離すと、海斗は俯き、何も言わなくなった。

俯いた海斗の後ろには・・黒いオーラが漂っているようにも見える。

「あの、仁さん。ぼ・・私、この前ぬいぐるみを忘れていったみたいなんだけど、知らない?」

海斗が落ち込んだ後には、爽が何とか話を持っていった。

「・・さあ?キミのように綺麗な人なら忘れないけど」

「いやぁ、それは分かるけどさ!っていやいや!えー、私が綺麗なのは認めますけど」

例え、女性を装っても爽は爽である。

「でも・・ぬいぐるみ・・今日見た気がする・・」

「ほんとに?!」

今まで落ち込んでいた(?)海斗はばっと顔を上げる。よっぽどこの場にいたくないらしい。

「うん・・キミという可愛らしいぬいぐるみ」

海斗ダメージ再び。海斗の心の中では、宇宙戦争のごとくズタズタなようだ。

そうして・・爽と海斗の仁のお客さん作戦は、意味の無いままに続けられ、結果何も得ることはなかった。



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