ホスト探偵 -前編-



夕方17時を回った頃、その事態は起きたのだった・・



「ない!僕のミーたんがないんだよ!」

店長の彼方は、爽と海斗を目の前にしてそう言った。

「ミーたんって何さ?」

海斗はもっともな疑問をぶつけてみた。いきなり控え室に入ってきたと思ったら、第一声が先ほどの台詞。

全く説明も何もなく、二人が理解することなど当然出来なかった。

「僕が大事にしてたぬいぐるみだよ!」

彼方は、声を大にして言った。そう、彼方は着ぐるみを着用していない時は、ぬいぐるみを常に持ち歩いているのだった。

そのヌイグルミは毎日変わっており、きっと366種類(うるう年の日を含めて)いるんだろうと噂されている。

「たかがぬいぐるみ一体ぐらい・・客が持ち帰ったんじゃないの?」

海斗はそう言うと、そそくさと控え室を出ようとした。

爽に至っては、話は聞いているが、本(ホスト入門書。勿論周りからばれないようにカバー付き)を読むのに

夢中であり、実際のところ無視である。

「・・・分かった」

彼方は、出て行こうとする海斗の前に立ちはだかり、

(もし、探し出してくれたら、キミが好きな弱弱しい女性をめいいっぱい相手させてあげるよ)

と小声で問いかけてみる。彼方も危機迫ってるものがあるらしい(ヌイグルミ一体で)

海斗は腕を組み、少し考えると、

「それプラス給料2倍」

といけしゃあしゃあと言い放った。彼方は「うっ・・」と引いたが、よほど大事なのか、それで了承を得てしまった。

一方の爽を落とすのはいとも簡単だった。

(ホストの座、一位を獲得する方法を教えてあげよう)

とまあ、こんな具合に、二人は「ミーたん失踪事件」の手伝いをすることに決定した。

そもそも、この二人が容疑者から外れるのは、二人とも控え室に閉じこもったままであったからである。

非常に癪なようだが、海斗は爽のアリバイを実証出来るし、爽自身も海斗のアリバイを実証できる。

一方で、二人一緒に盗んだのでは?!と彼方が口にしたが、

「人を犯人に仕立て上げるってどういう理由があってなのさ」 と海斗にぼろぼろにされたのは言うまでも無い。

「で、いつなくなったのさ。その、ぬいぐる・・」

「ミーたんだよ」

海斗の言葉を遮って、わざわざヌイグルミの名を強調する彼方。

「たかがヌイグルミを名前で呼んでられるか」

海斗は彼方を見下ろしながら、そう言い放った。あまりの冷たい視線に彼方は震えている。

「とにかく、この広間に置いておいたんですよね」

爽はそんな二人のやりとりを放っておいたまま、広間を見渡した。

「そうなんだよ!誰もいないしさ!一体誰が!」

彼方は広間を両手広げて、強調してみせる。が、その後ろにソファに座っている人物が嫌でも二人には目に付いた。

「ちょっと待った・・。後ろにいるのは誰さ」

海斗が指差した、その先には、仁がボーっと座っている。

「やあ!ホストNo.1の仁くんじゃないか!」

明らかに嫌味を含んだ言い方で、爽は仁に近づいた。 仁はぴくりとも動かない・・。

「無駄だな、寝てる」

海斗は、腰に手を当て、もう片方を口にあてて、どうしたものかと考え込む。

「仁くんはずっとここにいたんだけどねぇ・・寝てるからいないと考えちゃってたよ」

彼方は、そう言うとミーたん代わりの新しいヌイグルミを撫でながらため息をついた。

「でも、もし女性が持っていったとしたら・・ホストNo.1くんと話した可能性がないわけでもないんじゃないかい?」

爽は少し考えて、そう言った。確かに、仁の場合・・客の女性に対しては自然と話している。

「そうだったとしても、仁に聞き出すのは不可能だろ?客に聞いて貰うわけにもいかないし」

海斗のその言葉に、彼方はピーンと何かを思いついたようにぽんっと手をたたいた。

「二人とも、いい考えがあるよ!」



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