サディストと呼ばれる男



「ううむ・・」

爽は、最下位ランクを貰って以来・・客がめっきり減ってしまっていた。

その為、ほぼ暇にしていることが多かった。

その分、他のホストの偵察が出来るなどと、プラス思考にはなっていたのだが。

「Hei!爽ではないですかー」

「し、静かにしてくれたまえ!」

爽は、後ろからいきなり声をかけてきたケニーを小声で怒鳴った。

「・・?What?」

ケニーも小声で話すようになると、爽は一旦、その場を離れ、レジ方面へと歩き出した。

「一体何を見てたのですかー?」

今は、午後8時。丁度お客さんも増える頃である。

爽は、相変わらず暇であり、他のホストの様子を見ていたようだった。

「一つキミに尋ねたいことがあるんだけどね」

爽は腕を組み、ケニーにある疑問をぶつけた。

「あの、海斗という男は・・・」

「何や何や?サディストがどないかしたん?」

「うわっ!」

爽が最後まで質問する前に、レジテーブルに頬杖を立てながらにっこり話しかけてきたちこがいた。

「チーコさん、グッドイブニーングでーす」

「ケニー・・それ仕事の打ち合わせのときも聞いたで」

ちこもどうやらかなり暇なようであった。

客は長い時間このクラブに入り浸ったままで中々、出てこようとしないためだった。

「レジ店員くん、さっきのサディストとは一体?」

爽は、ちこの先ほどの発言に対して質問してみた。

「あー・・だって海斗の話しとったやろ?あいつ・・めっちゃサディストやん・・」

ちこはどうも苦手なタイプと言わんばかりにレジ台にひれ伏した。

「今来てる子とか・・ずーーーっと海斗が相手してんねんで?」

レジからうっすらと見える店内をちこは指さした。 爽とケニーは指が指された先を、見た。

すると、海斗の横に座るか座らないか迷いながらとまどっている様子の女性と、

それを横で笑顔で話しかけている海斗の姿があった。

「あの子なぁ・・友達の付き添いでいっつも来てるんやけど・・来る度、海斗に捕まんねん・・」

可哀想に・・と哀れ目で見つめるちこ。

でもこれも商売やから!と割り切ってる姿は関西魂というものが垣間見られた。

「そもそも、どーして海斗はサディストになったんでしょうかね〜?」

ケニーが根本的問題を指摘してみたが、爽は首を横に振り、知らない事を主張した。

ここに入店したばかりである上、特に海斗とは話すことも少ないため、過去のことなど聞いたことも無い。

「あー・・初めの彼女のせいらしいけどなぁ」

ちこは腕を組みながら、首を少し傾げて・・記憶を辿っていた。

「何だい?振られたのかい?」

爽は、普通に話しかけていたが、内心は少しわくわくしていた。人の不幸が蜜の味とはこの事である。

「振られたってわけでもなさそうなんやけどなぁ〜・・その付きおうてた子が浮気しとったらしいで。

んで、その子・・あーいうおどおどした子やったんやって」

そう言って、ちこは再び店内の、海斗の客を指差した。

「つまり海斗をトリックしてたんですかー?」

「そうか。彼はそんな辛い過去を持っていたんだね。振られたなんて・・僕には経験がないものだから・・」

既に爽の脳内変換は、海斗が振られたことになっている。

「は?!あいつが可哀想なわけあらへんやん!あいつ、この話した後、何て言った思うん?」



【ま、俺を欺いた責任はきっちりとってもらって、泣いてすがるのをきっぱり振ってやったけど】



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

一気にレジは静かになった。一体、どう責任をとってもらったのかは、ちこには勇気がなく、聞けなかったらしい。



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