最下位



「・・・・・・。」

爽は店の中にある店員専用控え室の隅で縮こまっていた。

キィ・・

「ちょっとあんた、何やってんの?」

ドアを開けて入ってきたのはちこだった。

どうやら控え室にて、化粧バッグを忘れたらしく、声をかけながら自分のバッグを取りに行く。

「・・・まさか・・この僕が・・」

「何や・・まだショック受けてたん?」

そう、今日はランキング発表の日であった。爽が入店して、早一ヶ月。それなりに客の相手もしたはずだったのに・・。

「んー爽くんは最下位だねぇ」

そうはっきり言った店長の言葉が、爽の心に突き刺さる。

人一倍プライドの高い爽にとって屈辱的であり、耐え難いものであった。

しかも・・はたや、着ぐるみを着た謎の店長やおどおどした女性のみを対象とするサディスト、

一方では眠り続けるホストに・・負けたとあっては立ち直りづらい。

「いやー・・でもあんたの客の対応が悪いんやと思うけどなぁ」

そんな落ち込む爽をバッグの中身を確認しながら、ちこは言った。

それを聞いて、爽はばっと立ち上がり、ちこに詰め寄った。

「僕の何がいけないんだい、レジ店員くん・・!」

(うわ・・ごっつ腹立つわ・・)

レジ店員はないだろうとちこは心の中だけで突っ込んだ。

「だってあんた、自分好きやろ?」

ちこは爽を指差して言った。が、これがまた勘違いを生んだらしく・・

「ん?自分とはレジ店員のキミのことかい?何だ、僕に惚れていたのかいキミは」

「ちゃうわ!えー・・うー・・あんた自身があんたの事を好きやろって言ってんの」

つまりは自分が大好き人間だろうと言いたいらしい。爽にも、その意味がようやく通じたらしく、即座に

「好きだね」

と答えた。そこからまだ「そりゃーこんなに麗しくて・・」と続いたのは言うまでもない。

「それを客の前で言ってるやん・・思いきり。そりゃー引くって」

そうであった。爽は客の前であっても、自分自身を押しまくっていた。

「僕のようにかっこいい人間はそうそういないからね」

確かにかっこいいとしても、さすがにここまでナルシストだと客も引くものである。

そういう理由から、爽には初めての客しか相手にされなくなっていた。

(まあ、初めての客は顔に騙されるわな)

ちこはそんな事を思ったが、口には出さなかった。 勿論、爽の場合だと・・言えば確実にのぼせ上がるためである。

「そうか・・・皆が僕の美しさに嫉妬しているんだね!」

「は?」

爽は色々と考えた末、“嫉妬”という答えに辿り着いたらしい。

「そうか・・そうだね。女性より美しいこの僕が罪なんだね!そうと分かれば、少し控えめに責めてみることにするよ!

ありがとう、レジ店員くん。キミのおかげで一位になれそうだ!」

そういうと、爽はその場を去っていった。

取り残されたちこは唖然としたまま・・・

「あのままやったら・・一生最下位やな」

と呟いたのは爽には内緒である。



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