自己紹介



「どうだい?この新しい着ぐるみ!ちゃんと尻尾までついてるんだぞー!」

店長の彼方はくるくるとその場で回りだした。

ケニーは拍手しながら、

「ワンダフルな衣装ですねー!」

と呑気に言っている。

「そうだろそうだろー!海斗くんはどう思う?」

趣味が分かってもらえたと勘違いしたのか、彼方は嬉しそうに海斗の意見を求めた・・が!

「・・このイカレ店長・・!」

海斗の逆鱗に触れたらしく、箒を手に海斗は攻撃態勢に入っていた。

「か、かいとくん・・!暴力はいけないよ・・!」

彼方はすっと店の中に逃げ込むが、海斗がそれを見逃さず、追っていく。

「そんな猫の着ぐるみばっか買ってるから店が赤字になって給料が出ないんだろ!」

海斗は箒を手に、店長を追いかける。

「違うよ!これは狐の着ぐるみだよ!」

「一体・・ここは本当に僕のような麗しい人間が来ても良い所なのか?」

さすがの爽も不安を感じ取ったようだった。

「・・・・・・おはよ」

爽の後ろからいきなり声が降ってきた。存在感を全く感じなかったためか、爽は驚いて声が出ない。

「Oh、仁。グッモーニンでーす」

ケニーは普通に、仁に挨拶をする。どうやらいきなり現れるのは、いつもの事らしい。

「・・・・誰?」

仁は眠そうな目を半分くらい開けて、爽をちらっと見て言った。

「僕かい?僕はこの店の・・いや・・世界中の人を魅了するためにこの世界に誕生した素晴らしき麗人・・」

「イン・ショート 新しい定員らしいですねー」

ケニーはすっと爽の言葉を遮って、簡潔に述べた。が、

「・・zz」

仁は壁にもたれかかって既に夢の中だった。

「人の話は最後まで聞き・・」

爽が仁に文句を言おうとした時、ケニーがそれを止めた。

「ストップ!仁に何を言っても無駄でーす。仁は起きてる時がないんです」

(じゃあ、一体どうやってホスト業をしているのだろう・・)



「じゃあ、改めて紹介しよう。深旗 爽くん。ウチのホストとして今日から働いてくれることになりました」

あれから、数時間経った後、ようやく自己紹介を行った。

彼方は皆に、爽を紹介するため、店の椅子に全員を座らせて、爽を立たせた。

「てか・・この店にこれ以上人雇えるお金があったのかよ」

海斗はまだ爽を雇用することに納得がいっていないようだった。

「どうぞよろしく頼むよ。それはそれとして、このクラブのNo.1を教えてもらえるかい?そこの外人くん」

爽は海斗の言葉も、気にせずにいた。

このホストクラブでNo.1の座を簡単に勝ち取ることが出来ると思い込んでいるため、

どうせすぐに土下座して謝る日が来るだろうなどと考えていることは内緒である。

「私はケニー・ブルースでーす。No.1は貴方の横でぐっすりスリーピングしてる人がそうですねー」

ケニーはそう言うと、爽が立っているその横の椅子に、初めて会った時からずっと寝続けている仁を指した。

「・・・・あんまん」

爽が、仁を見た瞬間。仁はそう一言呟いた。

「・・・あんまんが好きなんですか」

「ああ、仁くんの寝言は訳が分からないからほっとくといいよー」

そう、仁は常に訳の分からない寝言を繰り返しているのだった。初めて会った時から今までの時間

・・あんまんやらクーちゃんやら色々な言葉が飛び出している。

ケニーの話では、本人が唯一目覚めてる時に問いただしても覚えていないとのこと。

ただ、ホストの仕事をする時だけは、その寝言がキザな台詞へと変わるから不思議なものである。

「店長のその格好は美しいと思ってやっている行動なのですか?僕には理解が出来ないですが」

爽は、もう仁については語らず・・店長:彼方の不可思議な格好について指摘してみた。

一番初めに見たときに突っ込みを入れたかった爽だったが・・あまりの衝撃的光景に言えなかったのだった。

「ラブリーとお客さんに人気を集めてますですねー」

ケニーのその言葉に、店長はくるくる回っている。

その時、ちゃらららとドアの前につけているベルが鳴った。すると、女の子が一人入ってきた。

「何や、まだ店開けてへんの〜?」

関西弁を話すその子は、被っていた帽子を置いたり、荷物を置いたりして、何やら準備を始めている。

「おや、チーコちゃんおっはよー!」

彼方は、お酒の用意をするために別室に移動していたが、ベルの音に気づき、

その部屋からひょっこり顔を出して、言った。

「せっかくお客さん捕まえてきたのに何とろとろやってんの店長」

チーコは彼方の姿を見つけると、腰に手を当てて言った。可愛い顔に少し、眉間にしわがよっている。

「いや、新しい仲間を紹介してたのさ」

彼方はチーコの怒りをものともせず、笑顔でそう答えた。

「新しい仲間〜?」

「彼がそうだよ」

彼方は、チーコの前にいる爽を指差した。

「どうも、深旗 爽です。特技は・・」

爽は、女の人だと分かった途端に、周りには花を飛ばす効果を持ちながら口説きモードに入っている。

「ウチを口説いてどないすんねん。あんたも物好きやなぁ・・この店に来るなんて。

あ、ウチは庵條ちこ。通称チーコよろしゅうな」

爽の口説きもあっという間に砕け散った。さすが、関西人といったところである。

「チーコさんに私もアグリーですねー・・物好きすぎまーす」

「何やあぐりー・・?って」

どうやらちこは英語が苦手であるらしい。ケニーの言葉に怪訝な顔つきでちこは聞き返す。

「それよりチーコ・・客は?」

海斗はもうさっさと仕事に入りたいらしく、本題を切り出した。先ほど、ちこが客を連れてきたと言っていたのに、

こう無駄話を続けていてはさすがの客でも帰ってしまう。 ちこは慌てて、

「そやそや!客待たせてあるんや!準備はええな、あんたら」

「いつでも僕はOKです。僕の胸はいつも開けてありますから」

爽はそう言って、ちこの手をとる。

「だからウチを口説いてもしゃーないやろ・・」

半ばちこは呆れモードである。

「さー!「COLOR」開店だー!」

そして、彼方のこの一言で新メンバーの爽を加えた新しい色合いのホストクラブ【COLOR】が開店した。



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