COLOR 対 SINGLE



開店し、一時間が経過した。

現在優勢なのは・・SINGLEだった。花梨は、ちこの元へと小走りで駆け寄った

「ちーこさん・・」

花梨は、小声で小さくちこを呼んだ。ひどく落ち込んでいる様子だった。

「何しんみりしてんの。まだ開店して1時間やろ?夜は長いねんで。勝負はこれからや!」

ちこは握りこぶしを作って、熱弁した。

花梨は、ちこを見て、少し元気になり、「そうですね」と 微笑んだ。

そして、「ほら、まだまだやることあるやろ?」とちこは花梨を仕事場へ戻した。レジの場に一人になった、ちこは

「・・・信じとるからな」

と店内を見て、一言呟いた。



「朗様、こちらの方がかなり優勢のようですね」

「まぁ、当然だな」

黒服の男が、朗へと現時点での、状況を事細かに伝えていた。

朗は優と共に、女性にぐるりと囲まれ・・大勢の客を相手にしていた。

「優くん、かっわいー!海斗も可愛いけど、あなたも十分可愛いわ〜!」

「眼鏡外しちゃいなさいよー」

朗が黒服の男達と話している間に、相手をしている客のお姉さま方が、縮こまっている優へちょっかいを出していた。

「あ、あのボク・・メガネがないと・・」

眼鏡を取られないように必死に、両手で押さえながら、朗に目で救助信号を送る。

「いいじゃなーい、えい!」

優の抵抗も空しく、女性客に眼鏡を奪われてしまった。それに、やっと気づいた朗は、

「ば、バカ・・何やってん・・」

慌てて客から、優の眼鏡を取り返そうとするが、

客の女性はじゃれているものと勘違いし、 中々、手離そうとしない。



「What?」

「どうした、ケニー」

海斗はケニーがとある方向を向いて、首を傾げているのを見て、話しかけた。

いつもなら、客でとりあうほどの二人は・・今だ暇を持て余したままである。

それも、ほぼSINGLEに客をとられているせいでもあった。

新しい、そしてかっこいい人間が入ったともなれば、

常連であっても、面白見たさでついそっちへと行ってしまう のが人間のさがだ。

「何やら騒がしいでーす」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「ゆ、優・・?」

朗が優にゆっくり話し掛け、肩に手を置こうとした瞬間。

「うっ・・僕なんて僕なんて・・所詮眼鏡一つさえ守ることが出来ないんだ・・

そうだよね・・ だって僕今までじゃんけんでも勝った事ないんだし・・」

周りの客は一同硬直。

いきなりの優の変わりように・・客は引き、COLORの方へと向かっていった・・。

「何か面白いことになってるね」

「凄い変化でーす!」

その様子を近くまで見に来た、海斗とケニーは冷やかしの如く、朗の目の前ではっきりと言う。

「お前ら・・何しに来た」

「それより、眼鏡持ってかれたままで放っとく気?」

海斗は優の眼鏡が客に持っていかれたままであることを朗に伝えた。

すると、こんなこともあろうかとと、朗はサングラスを取り出し、優に渡した。

「わわっ・・!真っ暗・・」

「戻ったか?」

「う・・うん・・ごめんね」

優はサングラスを少しずらしながら、答えた。

優は眼鏡を外されると、自分を責めて責めて責め続ける性格に変化するらしく、

客の相手をすることは滅多になかったのだが・・今回、COLORの勝負に勝つために、

朗の傍で共に仕事を行うことを許して貰えたのだが・・。 あまりの客の多さに・・防ぐことが出来なかったのだった。

「それより、お前ら随分暇だな。偵察に来るほど」

優が元に戻ったのを見て、朗は一気に偉そうになる。

「別に。一度に大勢の客を相手にするのが得意な奴がウチにはいるから」

と海斗は言い返した。その頃、COLORの席では・・

「キミ達はほんとに美しいね。クレオパトラ並さ」

言葉巧みに、爽が大勢の相手の女性客を相手にしていた。

その周りにいるのは、SINGLEの常連客でCOLORは初めて訪れる客がほとんどだった。

本来なら、初めての客にもナルシストっぷりをアピールし・・すぐに海斗や仁に客を 奪われる爽だったが・・

いつもの倍ほどの客が来た事にかなり舞い上がっているらしく、 上手い具合に客を褒め称えていた。

その後、COLORの常連客はいつも通り・・海斗や仁、ケニーの元へ戻り、SINGLEに来ていた客までも・・

COLORの方へと足を運びだした。

今まで優位に立っていたかと思った朗達だったが・・終盤に来て、自分達が負けていることに気づくのだった。

そして、午前3時・・店内は静まり返り・・ロビーにCOOLRとSINGLEの全員が揃った。

「僕たちの勝ちだね。ま、麗しい僕によくここまで食いついたものだよ」

と爽の一言から、話し合いが切り出された。

「たった30万の差だろ。それぐらい・・」

「まだ分かってないんだ?」

海斗は朗にそうはっきりと言った。

たった30万円・・金銭の問題がそこにあるのではないことに朗は気づいていなかった。

問題は、朗のホストとしての心構えにあった。 客を客としてしか、見ないSINGLEの方針・・。

本来のホストは、夢を売る仕事として存在している。

話の面白さや外見、そして自分を客として判断せず、

一人の人間として相手してくれるそんな存在を求めて、夜の街へ 集まってくる。

売り上げだけを考えて、行動する朗たちSINGLEのやり方では、COLORの自由奔放なやり方に敵わなかったのだった。

「俺達は、これで終わらない・・SINGLEの名を必ず世に広めてやる・・!」

朗はそう言うと、COLORの店を足早に去っていった。

優はおろおろしながら、一礼し、朗の後を追っていった。

それに続いて、SINGLEのホスト(黒服の男達)も 店を出て行ったのだった。

「ま、ようは女心を掴むってのが大事ってことやんな」

ちこがそう言うと、花梨も「はい」とにっこり頷いた。

「そうそう!だからこそ女性にうけるこの着ぐるみを全員で・・」

「「却下」」

こうして、COLORとSIGLEの闘いは無事に幕を下ろしたのだった。



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