SINGLEの移動



COLORの店内では、開店が近いこともあり、ちこは外に並ぶ客の数を数えにいった。

いつもなら十人程度が今か今かと並ぶぐらいだったのだが・・

今回はちこの予想を遥かに 超えた・・恐ろしい状況が店前の光景として存在した。

「な、何やのこれ!?」

ちこはそっと開けていた関係者用の扉を、その驚きの思いとともにバンッと勢いよく開けた。

目の前には・・COLORに立ち並ぶ女性の・・数え切れないほどの人!

「え、えらい騒がしい思てたら・・いつのまにこんなぎょーさん・・」

今だ驚きを隠せぬまま、少し目を逸らすと・・行きかう女性にチラシを配る、黒服の男達の姿があった。

それは、明らかにSINGLEのホスト達である。気づけば、和服の女性が男達に、チラシを渡されていた。

(か、花梨やないの?!何ちゃっかり・・チラシ受け取ってんのあの子・・)

ちこは半ば呆れたが、チラシの内容を知るチャンス!と花梨に駆け寄っていった。





「一体これはどういうことなん?!説明してくれるんやろな?!

ちこはバンッと机・・もといチラシを叩きながら、COLORの店員全員に訴えた。

「まーまー、チーコくん。落ち着きなよ」

彼方は今日は、マングースの着ぐるみと称したものに身を包みながら、言った。

「こんなん配られて黙ってられる思うの?!」

そのチラシにはこのようなことが書かれていた。



“COLOR と SINGLE 今夜だけ 共にあなたの傍に”

と客を惹きつけるような題目から始まり・・さらに

“今日だけ 飲み物半額”

の文字。

「こんな客が多いってのに半額にしてどないすんねん!」

そう・・・ちこの怒りは、半額の文字にあった。

確かに、COLORの経理もちこが管理しているのであって、そういうことに敏感になるのも全員が分かっていた。

「たまにはいいんじゃないの?半額だろうと客が倍くればいつも通りだろ」

海斗は、余裕で言ってのけた。ちこが反論をしようとしたその時だった。

「よぉ、余裕だな。お前らは」

現れたのは・・朗。壁にもたれかかり、腕を組んだまま立っていた。

傍にはやはり、執事並にきちんと揃って並ぶ黒服の男達。

「わざわざ俺達が出向いたんだ。感謝してもらいた・・」

ガッシャーン

朗の言葉を遮るように、何かが落ちる音がした。

「わわ・・!す、すみません・・!ボク・・!」

机の下へとしゃがみこみ、落としたと思われるコップを拾う一人の男の姿があった。

眼鏡が今にもずり落ちそうで、片手で押さえながら、

一生懸命に拾うが、なかなか欠片を集めることが出来ないのかあたふたしている。

「〜〜〜!優!お前・・!」

「あれ?君確か?」

朗が優と呼ばれる男に掴みかかろうとした際に、彼方が優を見て何かに気づいた。

「君、朗くんたちが初めて来た時に、僕のぬいぐるみを拾ってくれた子だね!」

初めて朗たちが訪れた際に、彼方は泣きながらぬいぐるみを拾っていたのだが(理由は【店の由来】を参照)

その時に、気づいた優は謝りながら、彼方を手伝っていたのだった。

「それはほんとか、優」

朗は優を睨むと、優は少し顔を下げて、うんと頷いた。

朗は眉間に皺を寄せ、首で黒服の男達に合図すると、優は黒服の男達に手を貸してもらい、立ち上がった。

「とにかくだ。俺達、SINGLEがわざわざこっちの店に出向いてやったんだ。勝負はここでやる。

どっちの売り上げが上かで勝敗を決める。いいな?」

と言った後、朗が顔を上げて見れば・・COLORのメンバーはまるっきり無視である。

「ってお前ら、俺の話聞いてるのか!」

「聞くも何も、俺らは自分達の仕事をするだけだから」

はっきりとそう言い放ちながら、海斗は朗の傍を横切っていった。



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